

→→→続き
そんな感じで、ある日煮込んでいるボロネーゼを混ぜながら、ふと思い浮かんだ言葉がありました。
「Andante(アンダンテ)」
これは音楽用語で“歩くような速さで”という意味。
どうしてこの言葉が思い浮かんだのかなと、ボロネーゼを混ぜながら考えていると、どうやら僕は“煮込む”という工程が好きみたいだから。もっと言えば、煮込みに付随してくる“寝かせる”や“継ぎ足す”等も含めて。
なぜなら、料理の火入れ方法において、“焼く”や“揚げる”等の短距離走のような瞬間的な判断を必須とするものに比べ、“煮込む”行為は、判断をする時間が比較的緩やかだからかもしれません。
その速さは、短距離走と比べるとお散歩するような感覚に近しいでしょうか。
例えば、新幹線の車窓から見える風景よりも、鈍行列車の車窓から見える風景の方が、何となく色鮮やかで、魅力的に見えてしまう持って生まれた自身の性分のように。
この性分は、きっと料理以外でも同様だなぁと思っています。
誰もが限られた時間の中で、新幹線に乗れる人の方が、遠くの色んな場所に行けるかもしれない。
一方で、鈍行列車に乗れる人は、新幹線のその速さゆえに見過ごした近くの風景に気づけるかもしれない。
どちらも素晴らしくて良いと思います。
わかりやすい違いは、速さかなと。
とはいえ、SNS全盛の時代において、速さは必須で当たり前になっているようですね。
抗うつもりはサラサラ無いのですが、その隙間を歩くような速さで短編食堂を営んでいると、たまに同じ歩幅の方に出会えることがあり、少し幸せで安堵を感じます。
そして、のろのろと亀のような速さで進む短編食堂に、興味を持って来てくださる方々、また、あいも変わらず愛想もつかさず何度も来てくださる方々には、心からの感謝を。
僕にとって“煮込む”とはそういうこと。
いつも有り難うございます。

